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なんとなく読書感想文

小説:実用書:漫画=1:1:1。活字を読んでいるだけでそれなりに楽しい、というおめでたい頭の持ち主なのであまり書評的なことはしません。ただの感想文。流行にはついていけてません。

怖くない化け物の話

日本化け物史講座

暑くなってきたので、化け物話。

 

一章 ヤマタノオロチ

二章 カッパ

三章 狐

四章 天狗

五章 鬼

六章 皿かぞえ

七章 豆腐小僧

八章 狸

九章 ツチノコ

十章 口裂け女

 

上記以外の化け物もたくさん登場します。

「化け物」という概念を通して歴史の流れがわかります。

以下、気になったり、面白いなあと思った点です。

 

異物感・違和感・不条理・矛盾の説明としての化け物

八世紀前半に編纂された日本最古の正史『日本書紀』には化け物じみた生物が多く登場します。

政府公認の歴史書にそんなものがのっているなんて、なんとも不思議な感じもしますが。

有名なスサノオノミコトヤマタノオロチを退治する話も、『日本書紀』に載っているものです。

日本書紀』によれば、ヤマタノオロチは首と尾が八俣の大蛇だったそうです。

また、同じく正史である『古事記』によれば、背中には木が生え、腹からは常に血を流していたそうな…。

しかし実際はそんな生物はいないでしょう。

少なくとも21世紀現在にはいません。笑

まあ、世界には「未開の地」とされているジャングルなどもありますから、断言はできませんけども。

では、ヤマタノオロチの正体はなんだったのか?

何かの比喩として、何事かを象徴するための存在だったと解釈できます。

  • ヤマタノオロチを退治した際、尾から剣(草薙の剣)がでてくる。
  • 背中に木が生えて常に腹から赤い血を流している。
  • 舞台設定が出雲

以上の事から、この神話は鉄と関連があるものだと推察されます。

ヤマタノオロチの様子は、鉄を掘っているときの山の状態を思わせます。

腹から出ている血は、鉄分を含んで赤くなった湧水です。

また、出雲は製鉄がさかんな土地でした。

スサノオノミコトヤマタノオロチを退治したという神話は、鉄にまつわる何事かを克服、解決したことの象徴だと解釈できるわけです。

 これは、当時あった「鉄製部族」と「農耕部族」の争いを調停したことを象徴していると考えられます。

農耕部族と製鉄部族は決定的に対立していたわけではなく、お互い支えあい共存していました。

しかし、生活様式等が違うため、トラブルも起こり、相手への差別意識も生じます。

両者の間には調停役が必要となり、「スサノオ」が現れるわけです。

さて、神話が製鉄と農耕、どちらの視点から描かれているかというと、農耕部族の視点からかかれています。

つまりヤマタノオロチは、農耕部族から見た製鉄部族の受け入れがたい要素を「化け物」として造形化したものであると考えられます。

そしてその「ヤマタノオロチ」が退治されたことで、王権のシンボル・草薙の剣(皇室の三種の神器の1つ)が生まれます。

また、ヤマタノオロチから救ったクシナダヒメ(「奇し稲田姫」で豊穣のシンボル)を娶り、農耕部族と鉄製部族の和解で生じた土地の豊饒を手にします。

要するに、ヤマタノオロチは、部族間の融和のために切り捨てられるべき異物感の象徴として造形化された「化け物」というわけです。

このような性質の「化け物」は正史に次々と出てきます。

それはつまり、古代日本の王権が確立していく過程で生じる矛盾や、王権がいまだ不安定だった時代の揺らぎを表現しています。

王権のシステムに収まりきらない異物感、正史では直接語れない事実や違和感を表現するため「化け物」が必要だったのです。

 

他にも、江戸時代の全国各地に伝わる「カッパが水利工事した」伝説、なんてのもあります。

当時、水利工事は幕府の許可がなければできず、無認可で工事をすれば処罰の対象でした。

しかし、「カッパが勝手に工事した」ということにすれば、誰も処罰の対象にならずに生活や農作業の質が高まり、丸く収まります。

これも、人間が行った(行わざるおえない)行為と、守らなければならないルールとの矛盾の間で生まれた「化け物」かもしれません。

 

化け物からわかる権力の移り変わり

例:宮中での凶事の変化

「鬼」(8~9C、多数登場)

・姿が無い

 ↓ ↓

「ヌエ」(1115年、『平家物語』)

・具体的な姿がはっきりと描かれている

→武士が退治することができる

 

この変化はおそらく、武士の存在が宮中で大きな影響力を持ち始めたことと関係しています。

化け物の実体化に伴い、それに対抗する力が、陰陽師が管理する呪術的なものから武力という実体的なものへと変わっていく様子がわかります。

逆に言えば力が実体化したことにより、化け物が実体化したともいえます。

貴族社会から武家の台頭へという社会的な変化が、化け物変遷からもわかります。

 

怖い話

という内容の本ではもちろんありませんが、「へえ」と思う内容がいくつもありました。

化け物を恐怖やオカルトといった対象でみることはあっても、社会や歴史という観点で考えた事はなかったので。新鮮でした。

 

 

日本化け物史講座

日本化け物史講座